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ひでちゃんのこと。
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私の最後の自主研の前日、ひでちゃんが
「明日どっかメシ食いにいかない?」
と言った。
断る理由もないので
「いいよ」
って言ったら、すごくうれしそうだった。
「明日が最後の自主研でしょ。いちど一緒にどっか行きたかったんだよ」
なんだか、照れた。

最後の自主研の日は曇っていた。
私が受付に行こうとしたら
ひでちゃんに廊下でばったり会った。
大拝殿の下の休憩室で待ち合わせることになっていたけど
すぐ会えた。


二人で本山を出てすぐにひでちゃんはしゃべりはじめた。

「おれこんな風に女の子誘ったの初めてなんだよ」
いきなりなんなんだー

かっこいいカオしてるんだし、いくらでもモテるだろうに。
彼女くらい何人かいただろう。

そんなようなことを私が言ったら
「もう10年いないよ」
へええ~ 意外だね。
「でもモテるでしょう?」
って聞いたら10年の間に12人もの女の子に告白されたそうな。


「そんでも付き合おうとはしなかったわけ」
「うん。なんかあんまり。その10年前も4ヶ月だけだったし。
 だから経験値低いんだよね~」

はあ。10年前ったら中学生。
そりゃそうだよな。

「バンドやってたし、そういうのに興味もなかったんだよねー」
へえ、バンドやってたのか。

「よしみちゃんは?」
ああ聞かれてしまった。
しょうがない。

「なーんにも、ない。一度もない。」
へ?って言った。ウソでしょう。
いやだからないもんはないわけで。
キミみたいにモテるタイプでもないので。

「信じられないなああ」
そんなに驚かなくても。

その後、駅に着くまでひでちゃんはその中学生の時の恋バナを延々してた。
よくしゃべるなあ、と思って聞いていた。

何食べたい?って聞いたからラーメンって答えた。
とりあえず京都駅に行って探したら駅ビルの中にラーメン屋さんがたくさん入ってる
テナントがあったので、その中の一軒に入った。

久しぶりに食べるラーメンはおいしかった。
ちゃんと合掌して、ふたりでいただきますって言って食べた。
あ、チャーシュー入ってる。
肉だね、でも与えられたものはありがたくいただこう。
とか言って。

その時ひでちゃんの話は大学時代やバンドの話になっていた。
バンドやるために大学やめたとか、バイト三昧だったとか。
免許を見せてもらったら金髪だった。
なんだか、今のほうがいいよ。って私が言った。
私の免許見せたら、
なんだか、今のが若いね。って言った。
それって童顔ってことでしょ。

ラーメン食べて外に出たら風が強くて少しさむかった。
ひでちゃんは自分の上着を脱いで私にかけようとした。
私はあまりにも恥ずかしくて、慌てて
大丈夫、大丈夫!それはやめてよ。恥ずかしいじゃんって断った。

やっぱり中に入ろうと言って、伊勢丹のなかのカフェに入った。
コーヒーかなんかを飲みながらひでちゃんは生長の家に触れたきっかけや
自分の病気のことを話し出した。

笑って話していたけど、相当につらいことだってことだけはよく分かった。
この人は今、死ぬか生きるかの状態なんだ。
私なんかには想像できないほど凄い治療を受けて、宇治にやって来たのだ。
私は聞いていてだんだんつらくなってきた。
と同時になぜか眠くなってきた。
コーヒー飲んだのに。

ねえちょっと聞いてんの?
聞いてる聞いてる。
眠いの?
いや眠くないよ。
すごくねむそうだよ。おーい。
もう一杯コーヒー飲みなよ、おごるから。
いやいーよそんな。
だってねるんだもん。
ねてないってば。

言ってるうちに2杯目のコーヒーがきた。
自分のマヌケさに少しあきれた。


まだ2時か3時くらいだったけど、宇治に戻ることにした。
あたたかくなってきて宇治川沿いを散歩でもしようと思った。
二人で塔の島へ行った。

「なんかおればっか話してるから、よしみちゃんのこと話してよ。」

何を話せばいいのか分からなかった。
私が宇治に来たのは鬱病と母親との摩擦が原因だった。
鬱病はほとんど良くなってた。
でもひでちゃんに比べたら私のことなんてなんでもないような気がした。
家族が大好きと言える人に、母親が大嫌いだったとは言えなかった。

あとひでちゃんが聞きたがっていたのは私の恋愛のことだったので、
まるで何もない私には話すことがなかったのだ。

というか、私は昔から恋愛も結婚も子供を生むことも怖くて怖くてしょうがなくて、
だからもうずっとひとりでいいと思ってた。
宇治に来て半身さんとか、結婚のすばらしさとか聞いても
ぜんぜん気持ちが変わらなくて、どうして自分がそういうふうに思うのか
全然分からないけど、とにかくそういうの今の私にはいらないのって
とても正直に、はっきり言ってしまった。

別にひでちゃんを拒否したわけでもなく、
ただ今の自分の思ってることを正直に言った。

でもこんなことを男の子に話すのは初めてだった。
なんで出会ってまだ間もない人にこの自分のネックになってる部分を
全部話しちゃったんだろうと思った。

「そうかああーー」
ってひでちゃんは言った。

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